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いつもなら休日のたび行ってるはずの釣りもこんな状況ではそれも叶わず、

かつての釣り場をぼんやり思い出す時間も多くなりました、その中でも強烈な思い出として残っている、

今から20年以上前の、福島は松川浦の海水浴場での夏の出来事。

釣友と夜通しの釣りを計画して、昼から相馬港へ黒鯛を求め、うろつき回った揚句、結局釣れず、

カレイでも釣るかと日没後に砂浜から竿を出した、腰を落ち着け、格好つけて持ってきた

バーボンウイスキーをちびちびやりながら、バカ話をして過ごしていた、いい加減酔いも回った

9時くらいだろうか、10軒ほどある海の家に1軒だけ灯りがあって、そこから

「お"~う、あんちゃんよ~!」と、ドスの効いたヤケクソ気味の声が響いてきた。

男は明らかにうちらに向かって言っているんだけどこっちも明らかに聞こえない振りをしていた。

けど、だんだん声量が上がり、イラついたような声色になってきたので無視もできなくなって、

「あ~、めんどくせえけどちょっと行ってくっからよ」と釣友に言い残し、

少し酔った足を砂浜にとられながら海の家に向かった、この状況からしてだいたいどんな人かはわかる、

多少の面倒は覚悟の上で夜更けの海の家にお邪魔した、「・・・ちゃ~す、あんちゃんで~す」

「お~きたがぁ、座れ、なんか釣れだが?」機嫌の直ったおんちゃんが屈託なく聞いてくる、

「いやあ、なんも釣れないっすね~、潮が悪ィんだか、ヒマなんで酒飲んでたっすわ~」

「凪だしな、魚いね~べはぁ、ほれ。」とぬるい缶チューハイをドン、と出され、とりあえず乾杯、

テーブルには焦げてしまい、客に出せなくなったのか、黒い焼き鳥が紙皿にたくさん乗っている。

そしてこの人のいでたちがまたすごかった、ステテコダボシャツ角刈りに、金のネックレス、薬指にも

これまたでかい金の指輪、ショートカットした小指と、焼けた背中には極彩色のジャパニーズタトゥー、

メインキャラクターの雷神様がシャツの向こうにうっすら見えた。 雪駄ではなく、ビーチサンダルを

履いていたのが唯一惜しまれたが、色黒の、目元鋭い昭和のヤ○ザの見本のような、なかなかの男前。

あの当時でもこれだけコテコテのコーディネイトはそうそうお目にかかれない、

なんだか任侠映画のエキストラの楽屋にお邪魔したような、珍しい動物に出会ったような心持ちになって

自然とテンションもあがってきた、・・・その時は、だ。

聞くと40歳くらいの任侠と漁業を生業とする外見そのまんま、説明不要のお方。

本日のシノギもよかったんだろう、上機嫌で地域のこと、漁のことや自分の生い立ちなんか話してくれた、

とりとめのない話をチューハイ1本分聞いて(やったので) んじゃあオレそろそろ・・と言いかけたとき、

唐突に、ホントに唐突にダボシャツが言った。「ど~れ、海さでも行ぐべはぁ~。オメも来いはぁ。」 

「へ・・ウミ? い、いや先輩、なに言ってんすか、ここ海じゃないっすか。」

「あ”?、違う違う、あいづで海さ行ぐのはぁ、へへん。」と顎を外に向け、あるものを指した。

見ると二人で乗るにはあまりに小さく頼りない、年季の入ったまあるいゴムボートがそこにあった。

「乗る・・んすか?これに?オレが?先輩と?海に?二人で?ホントに?行くんすか?今から?」

あせった、酔いがすっとんだ、頭がサーっと冷えてきた、そしてすご~く悪い予感がした。

なんぼ静かな海水浴場とはいえ、なんぼ漁師だとは言え、たいがいに酔っ払った渡世人だ、

しかもあんな家庭用子供プールのようなちっぽけなボートで夜の海に漕ぎ出そうという

あんまりなサプライズ、あまりにもハイリスクノーリターンな提案に絶望的な気分になり、

その場にへたりこみそうになった、ヘタすると死ぬなこりゃ、と思った。

ダボシャツの先輩はそんなディープブルーになっている自分にはお構いなしで、「いぐど~」と、

薄ら笑いを浮かべ、ボートについてる紐をズルズル引いてヨロヨロと暗い海に向かって行く、

ここで、「先輩、オレ無理っす!すんませ~ん!」とか言いながら逃げれば逃げられただろう、

でもしなかった。

今思えば、酔いと、アタマの悪さと、若さゆえの旺盛な好奇心が恐怖心をわずかに上回ったんだと思う。

死ぬほど怖いけど行ってみようと思ってしまった、 初対面の渡世人に命を預けてしまった。

ダボ先輩は少しだけ漁師の顔になって、馴れた手つきでオールを操り、沖に向かって漕いでいく、

漕いでいる間、恐ろしいことにダボ先輩は一言も話さなかった、それがまた怖くて自分も喋れなかった。

100メートルくらい漕いだだろうか、ダボ先輩は漕ぐ手を休め、空を見ながら大きく息をついて言った、

「どうだ~あんちゃん、いいべ~。」友達に呼びかけられるような明るい声にちょっとホッして

あたりを見渡すとこれがよかった、うっとりするくらいよかった。幻想的で夢を見ているような景色に

返答もできずにいた。街の灯りも音も届かない静かな闇の中、二人を乗せた小さなボートは音も立てず、

ゆらりゆらりと揺れ続け、黒い油を流したような海面を三日月が遠慮がちにキラキラと照らしていた。

雲もなく、闇も深いせいでいつもよりたくさんの星が見える、陸地では絶対味わうことができない

体験だった。互いに向き合い、ヒザを窮屈に曲げ、ボートの縁に頭を乗せて、しばらくそうして満天の

夜空を眺めていた。

それからどれくらい海にいたのか、どうやってダボ先輩と別れたのかは忘れた。


今ならダボ先輩の気持ちが少しわかるような気がする。

ダボ先輩はこんな凪の海と空気の澄んだ夜に、いつも一人海に出ていたんだろうなと思う、

板子一枚下は地獄の、命と生計がかかった海の仕事。

人を傷つけ、自分も傷いたり、やるせないことも多い任侠の仕事、

どちらも平穏とはいえない世知辛い毎日からいっとき離れ、静かで優しい夜の海に出ることで

なにかを取り戻したり、なにかを捨てたりしてたんだろう。それならボートを仕事場に置いて、

閉店後に一人酒を飲んでいる理由もわかる。この日の夜は、たまたま砂浜にいた若くて調子のいい、

世間知らずで見ず知らずのあんちゃんに見せてやっか、と気まぐれをおこしたのかも知れない。  

オレなんかより、もっと大事な人に見せてあげたらいいのに、とも思うけど、

不器用そうな人だったからそんなことは出来なかったんだろうな。

それから自分の持ち場に帰って、虫よけをつけて、カッパを羽織り、いびきをかいてる釣友の隣に

横になったらすぐ眠りについて、夜明け前に目が覚めた、薄明の空にオレンジと青の絶妙な

グラデーションが視界いっぱいにひろがっていて、この景色もまたすばらしかった、

釣友も起きてきて、「お~マボい~」 なんてあくび混じりに言っている。

クーラーに残っていた缶ビールをあおり、タバコをふかし、少しずつ変わっていく空を

ぼーっとした頭で眺めながら、二人でひとしきり、あくびやらゲップやら放屁を繰り返し、

ヒトデとゴミがついた仕掛けと竿をのそのそしまって、朝マヅメの黒鯛を狙い、相馬港に向かった。


思い返せば、素敵な景色にうっとりしたり、感動する光景に出会うことも結構あったけど・・・

そこに女の子がいた、なんてことは一度もなかった。


























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2011.05.29 / Top↑
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